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○ あらすじ
2011年3月末、2人の先輩を亡くし、母子家庭で育ったホモフォビアのゲイビデオ男優・加藤数馬(34)は元教師の沼田重則(25)を後輩として迎える。
加藤は沼田の無垢な心を見据え、この商売に向かない事を提言するが、沼田は聞き入れない。
会社で孤立している加藤はボクサーの友人・美紀(29)とその妻・直子(直子)と勝(30)だけにしか、心を許さず、美紀と直子に理想の男女像を見ている。
数馬には税理士の恋人・上岡健児(29)がいるが性生活はなく、数馬は健児に罪悪感を抱いている。
仕事をこなしていくうちに沼田は数馬に信頼を寄せ、数馬の傷を知るようになる。
ある夜、数馬は新宿2丁目で美紀がGOGO BOYとしてアルバイトをしているのを、目の当たりにし、暴行を働き、会社をクビになる。
恋人とも決別し、心を寄せていた友とも別れ、十数年ぶりに近い故郷へ帰る数馬であった。

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○ 登場人物
加藤数馬(34)ゲイビデオ男優
上岡健児(29)数馬の恋人
沼田重則(25)数馬の後輩
美紀(29)数馬の友人
勝(30)数馬の友人
直子(31)美紀の婚約者
翼(6)美紀の長男
携帯ショップ店員(25)
向井(57)数馬の上司
佐藤(37)gay shop「dicks」店長
店員(22)gay shop「dicks」店員
スーツ姿の客(38)
男1~12
乞食1(65)
乞食2(58)
女子店員(23)、セガフレード店員
ホテル従業員(64)
警備員(47)
清掃係の中年女性(67)
警官1(28)
警官2(37)
清水(26)コンビニ店員
バーテン(23)
GoGoBoy1~4

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○ マンション1室 (朝)
遮光カーテンの隙間から日が差し込む。
セミダブルのベッドの上に加藤数馬(34)と上岡健児(29)、横になっている。
サイドテーブルのG’Z one ca002の振動が鳴り渡る。
数馬、携帯を止め、ベッドから起き上がり、遮光カーテンから外を覗きこむ。
数馬、煙草をくわえ、ジッポをつける。

○ 暗転
タイトル「mosaic」と表示。
健児の声「…ここで吸わないでよ……」
数馬の声「んん…」
健児の声「あと5分寝かせて……」

ジッポ、鋭い音を部屋に響かせ閉じる。

○ フォルクスワーゲンPASSAT CCV6車内(昼)
ドアが開き、助手席に沼田(25)、入ってくる。
運転席に座る数馬、封筒に5万円入れ沼田に目をやり封筒を内ポケットに入れる。

沼田「…加藤さん…沼田です…よろしくお願いします」
健児「……数馬さんでいい……」
沼田「……あハイ…」
数馬「行くぞ…」
沼田「ハイ」

数馬、バックミラーを見てアクセルをゆっくりと踏む。

数馬「……下の名は?」
沼田「重則です」
数馬「前は何を?」
沼田「……教師です」
数馬、沼田を見る。
数馬「世も末だな…」
沼田「……」
数馬「太陽に月の気持ちが分かってたまるか……」

沼田、数馬の横顔を見る。

沼田「はい?」
数馬「誰の詩か知ってるか?」
沼田「いや…知りません…」
数馬「……そうか…」
沼田「……」
数馬「中学か?」
沼田「高校です」
沼田「……」
数馬「何を教えてたんだ?」
沼田「英語を…」
数馬「……最近のガキは何で電子辞書なんて
持ってるんだ?」
沼田「その方が早いからです…」
数馬「教師が薦めてるのか?」
沼田「僕はそうでした」
数馬「俺は分厚いジーニアスとプログレッシ
ブを持ってたぞ……」
沼田「……」
数馬「1番多いアルファベットは?」
沼田「…cですか?」
数馬「sだ…sexy…subtle…sonny clark…」
沼田「……」
数馬「私立か?」
沼田「都立です」
数馬「いい先生だ……」
沼田「……」
数馬「上か?下か?」
沼田「ハイ?」
数馬「北か?南か?」
沼田「え?」
数馬「出身だ……」
沼田「…岩手です……」
数馬、沼田を見る。
数馬「……」
沼田「…数馬さんはどこですか?」
数馬「…zero… for two……」
沼田「え?…」
数馬「何でこの商売を?」
沼田「クリエイティブな仕事をしたかったからです……」

数馬、沼田を見る。

数馬「音楽は何を?」
沼田「あ…j-popです」

数馬、カーステレオを操作する。

数馬「今日は古典音楽で我慢してくれ……」
沼田「……」
数馬「沼田…テストだ…」
沼田「はい」
数馬「この業界は…耽美主義から…写実主義
……退廃主義に変わった……」
沼田「……」
数馬「次は何がくる?」
沼田「……分かりません……」
数馬「……正解だ……」

沼田、数馬を見る。

沼田「……この曲聴いた事あります……」
数馬「……180年以上流れてる……」
沼田「曲名は何でしたっけ……」
数馬「……『欲望の義務化』だ……レコード
屋でスティキをリズムよく振りながら歩く
んだ……」

沼田、ポケットからメモ帳を取り出す。

沼田「……もう1度いいですか?」
数馬「……後で思い出す…」
沼田「はい……」
数馬「……3点類似法って分かるか?」
沼田「知りません…」
数馬「…先月俺が作ったんだ……」
沼田「……」
数馬「ある人物になるには3つ類似点がある
……金が欲しいか?…」
沼田「え?…まぁ…」
数馬「ケチ…溜め買いをしない…綺麗好き…」
沼田「……」
数馬「それを実行しろ…金持ちになれるぞ…」
沼田「……数馬さんは……」
数馬「……」
沼田「……」
数馬「……ある作家が言ってた…HONDAのnsxを見て…日本人にはパースが描けない…って……」
沼田「……」
数馬「当たり前だろ…日本人の顔はまっ平ら
なんだから…」
沼田「……」
数馬「……」
沼田「……カーナビはいいんすか?」
数馬「…どこ行きたい?……渋谷か?…新宿か?……」
沼田「……」
数馬「…新宿にしよう……」
沼田「…ハイ…」
数馬「留学はしたのか?」
沼田「あ…NewYorkに……」

数馬、沼田を見る。

数馬「……コロンビア大学?」
沼田「……違います……ただの語学学校です……」
数馬「どこにある?」
沼田「あ……Grand Concourseの……」
数馬「Blonx?」

数馬、沼田を見る。

沼田「……ええ……」

沼田、数馬を見る。

数馬「……」
数馬「字は綺麗か?」
沼田「え?」

数馬、内ポケットから封筒とボールペンを出し、

数馬「今から言う事をそこに書いてくれ…」
沼田「あ…ハイ……これどうやるんですか?」
数馬「cross……右回転だ…」

数馬、ハンドルを右に切る。

○ 新宿 コインパーキングエリア
フォルクスワーゲンCCV6、駐車場に停まる。

○ 車内
ハンドブレーキを上げる数馬。
エンジン音が消える。
数馬、沼田を見る。

数馬「さっき何って言った?」
沼田「え?」
数馬「……何でこの仕事を?」
沼田「あ…クリエイティブな仕事をしたくっ
て…この仕事を選びました……」

数馬、沼田を見据える。

数馬「……クリエイティブって何だ?」
沼田「あ…企画したり…撮影したり…デザインしたり…そういう事をしたかったんです…アドビのソフトも買いそろえました…教職員用ですけど…」
数馬「……」
沼田「数馬さんはこの仕事長いんですか?」
数馬「12年だ」
沼田「……長いですね」

数馬、沼田の目を見つめる。

数馬「……」
沼田「……」
数馬「CSは何の略だ?」
沼田「Creative Suite」
数馬「Custmer Service……転職したかったら覚えとけ…」
沼田「……」

数馬、沼田から目線を外し、ポケットから小銭を取り出し、

数馬「コーヒーを買ってきてくれ…お前も好きなの買って来い…あ…ついでにそれをポストに入れてきてくれ…裏手にある…」
沼田「ハイ」

沼田、助手席から出ていく。

数馬「あ沼田…」

沼田、振り返る。

沼田「ハイ」
数馬「清水って店員がいたら…彼にもコーヒーを…ブラックだ…」
沼田「ハイ……」

数馬、煙草を取り出し、1本くわえ、扉を開ける。
数馬「……」

数馬、煙草に火をつける。
眼前にコンクリートの雑居ビルが並ぶ。

○ 新宿南口 GAP前 (昼)
行き交う人々に目線を泳がせる数馬。
数馬、男1(20)に声をかけるが無視されてしまう。
数馬、ティッシュを配っている男2(21)の横側を窺う。

数馬「ちょっといいかな?」
男2「何すか?」
数馬「1日突っ立て幾ら稼げるの?」
男2「8000円です」
数馬「2、3時間で4万稼がない?」
男2「何の仕事ですか?」
数馬「……モデルだよ…」
男2「イイす」

男2、ティッシュを配り出す。

数馬「悪い話じゃないだろ?」

男2、階段脇の段ボールを指さし、

男2「今日中に配り終えなきゃならないんで……」
数馬「分かった…邪魔したね…」
男2「……」

数馬、振り向き、沼田を一瞥し、

数馬「次行こう……」
沼田「ハイ……」

数馬、歩きだす。
沼田、後に続く。
数馬、煙草を1本くわえ階段脇の喫煙所に向かう。

数馬「吸うか?」
沼田「いいえ…」

喫煙所・横に乞食1(65)が壁に寄りかかりしゃがみこんでいる。
数馬、咥え煙草でしゃがんで、煙草のケースから1本取り出し乞食1にかざす。
乞食1、数馬を見て握った手をかざす。
開いた手にはまだ長い拾い煙草がある。
数馬、それを見る。
乞食、微笑む。
数馬も微笑み返す。
沼田、そんな数馬を見ている。

○ ラブホテル フロント前
肩に三脚とトートバックを抱えた数馬と男3(22)、フロントに立ち止まる。
1歩遅れて沼田、ジェラルミンのケースを床に置く。
数馬、身を屈め、フロントの窓に向かい、

数馬「エグセティブスウィーツを予約した加
藤です…空き部屋ある?」

数馬、ポケットの封筒から5千円札をフロントに置く。

○ 同 フロント内
中年女性(64)、TVを見ながらタオルを畳んでいる手を休め、フロントに目をやる。
顔がほころぶ中年女性。

○ 同 フロント前
中年女性の声「あるよ…」
数馬「……」
中年女性「頑張って…」

数馬、お釣りを封筒に入れ苦笑する。

○ 同 廊下
薄暗い廊下。
廊下を歩く3人。

数馬「緊張する?」
男3「ええ…少し…」

男3、腕時計を見る。

数馬「卒業したら?」
男3「え?……サラリーマンじゃないすか……」
数馬「……チノパンにイエローヌバック……」
男3「え?」
数馬「チノパンはどこの?」
男3「あ……ディーゼルかな……」
数馬「……時計は……フォッシル……」

男3、数馬を見る。

沼田「……ギャラで何買うんですか?」

数馬、沼田を見る。

沼田「……」
男3「……黒が好きなんですか?」
数馬「……黒は女を美しくするらしい……」
男3「え?俺が入れるんですか?」
数馬「……その逆だよ……」
男3「……ならいいすんけど…」
数馬「……」

○ 同 一室
数馬、くわえ煙草で三脚を組み立てている。
トートバックからバイアグラを取り出し、1錠を口に入れる。

沼田「水要ります?」

数馬、首を振る。

数馬「しばらく舌の下で溶かすんだ……」
沼田「苦くないですか?」

数馬、沼田を見る。

数馬「……tastes of teenだ……」
沼田「……」

数馬、床のジェラルミンケースから、PD150を取り出す。

数馬「これはSONYのPD150…覚えてもその内無くなる……」
沼田「……」
数馬「アイリス…シャッタースピード…ホワイトバランス…分かるか?」
沼田「……なんとなく……」
数馬「なんとなく?……上適だ…」
沼田「……」

数馬、PD150を雲台に取り付ける。

数馬「テレビマンはデジって言うらしい…映画人はキャメラだ……エロスビデオは何だと思う?」
沼田「エロスビデオ?」
数馬「……エロでも…エッチでも…アダルトでもなく…エロスだ……エイチならいい…」
沼田「……」
数馬「何だと思う?」
沼田「さぁ…」
数馬「……PD150……」
沼田「……」
数馬「テレビパーソンの方が正しいか……」

数馬、沼田を見る。

数馬「おまえメモしてんのか?」
沼田「え…ハイ…」
数馬「……」
沼田「……」
数馬「……日付は書いたか?」
沼田「…いや……」
数馬「……書いとけ…」
沼田「ハイ…」

○  同 洗面所 (時間経過)
鏡に向かいネクタイを結ぶ数馬。
数馬、鏡の自分を睨む。

数馬「……今から言う事を聞いて欲しい…俺に触るな……俺を見るな……何も言わずここから出て行って欲しい……Be quite…shut fuck up…無為な言葉を俺に言わないでくれ…『知的生き方文庫』の読みすぎだ……聴くに値する日本語はただ1つ……『汚れちまった悲しみは倦怠のうちに死を夢む』……お前がそう導いたんだ……今日のファッションのテーマはラインハイルド・ハイドリッヒ……mad black……光なき闇だ……I can’t shoot them any more……that long black train is pullin’on down……feel like I’m knockin on heavens’ door……cock suckerでよかった…この血をぶちまけてやる……」

数馬、鏡の自分をあざける様に見る。
ノックがあり、

沼田の声「……数馬さん…どうしました…」

沼田、戸を開く。
数馬、沼田に目をやる。

数馬「俺に罪悪感を植え付けるなって言ってんだ!」
沼田「……」
数馬「……リハーサル中だ……」
沼田「……すいません……」

数馬、ネクタイを優しく触れる。

数馬「……ウィンザーノット……」
沼田「……」
数馬「……ストライプの方がいいか?……」
沼田「……いや……似合ってます……」
数馬「……」
沼田「……」

数馬、沼田を見つめる。
沼田、目線を罰の悪そうに泳がせ、数馬を見つめる。

数馬「……行くか?」
沼田「はい…」

数馬、ジャケットをはおる。

数馬「沼田……」
沼田「ハイ……」
数馬「沼田……引き絵はほとんど使えない………腋を締めて…頬にあてがい…dickに従え…」
沼田「……ハイ」

○ 同 ベッドルーム (時間経過)
はだけたYシャツ姿の数馬、ベッドで男3を正上位で攻めている。

数馬「……男なのに乳首が感じるのか?」
男3「……え?……はい……」
数馬「……」

数馬、冷めた目線で男3を見降ろす。
男3、数馬の右腕を掴む。

数馬「自分で腰を振ってみな…内定を取り消すぞ……」

沼田、PD150を回す。
沼田、ファインダーから目線を外し部屋を見まわす。

沼田「……数馬さん…」

沼田、数馬に近寄り、数馬の肩に手をおく。
数馬、肩に置かれた沼田の手を一瞥する。

数馬「……RECを消せ…」
沼田「数馬さん…揺れてます……」

数馬、動きを止める

数馬「…出るぞ…」
沼田「…撮影は?」
数馬「ここで死にたいか?」
沼田「……」
数馬「君…出よう…」
男3「え?」
数馬「……」
男3「揺れてんじゃないですか?」

男3、ベッドから降り、衣類を着る。
数馬、Yシャツの上に革ジャンをはお
り、ジェラルミンのケースに荷物を乱暴にほおりこむ。

○  路上
歌舞伎町・ホテル街歩道。
沼田、辺りを見ている。

沼田「…戻ります?」
数馬、沼田を見る。
数馬「……大丈夫?」
男3「え?ええ……」

数馬「……申し訳ないが…この素材は使えな
い…」
男3「……4万くれるって事でしたよね?」
数馬「……」

数馬、後ろのポケットの財布から1万札を取り出し、男3にかざす。

男3「1万?」

男3、1万を受け取り、舌打つ。

数馬「……悪い……」

男3、舌打ちし、

男3「調子のんなよ」

男3、数馬に唾を吐き振り向き路地を進む。
数馬、革ジャンの袖で顔を拭う。

沼田「……」
数馬、沼田を見て、
数馬「This is creative……we’re artist……」

沼田、ポケットからハンカチを取り出し、数馬に向ける。
数馬、ハンカチに目を落とし、ハンカチを受け取り、顔を拭う。

数馬「……行こう……」
沼田「ハイ…」

○  サンマルクカフェ (夕方)
混雑した店内。
数馬、ポケットからG’Z one ca002とIS05を取り出しテーブルに置く。
沼田、G’Z one ca002を一瞥する。

数馬「これに番号打ち込んどいてくれ…」

数馬、IS05を渡す。

沼田「ハイ…」

数馬、煙草を取り出し咥える。

沼田「機種変しないんですか?」
数馬「……2年前に変えてばっかだ…」
沼田「塗装が剥げてますよ……」
数馬「……おまえはケータイ屋か?」
沼田「……」

数馬、煙草にジッポで火を点ける。

沼田「……数馬さん……ロック解除は?……」
数馬「1130」
沼田「え?」
数馬「イ・イ・サ・オだ」
沼田「……ハイ」

数馬、店内に視線を流す。
隣席のスーツ姿の男4(24)、数馬の横顔を見る。
数馬、男4の視線に気づき一瞥する。

男4「何吸ってるんですか?」

数馬、ケースを男4に見せる。
男4、煙草をかざし、

男4「これ吸います?」

数馬、首を横にふる。
数馬、目線をテーブルに落とし、沼田に目をやる。

男4「お2人の関係は?」
数馬「……」
沼田「先輩後輩です…」
男4「ミュージシャン?」
沼田「いや…」
数馬「肉体労働…」
男4「大変ですね……」

数馬、苦笑する。
沼田、テーブルにIS05を置く。
数馬、沼田に目線を向ける。

数馬「初めての美術の時間はどうだった?」
沼田「……」
数馬「感動で言葉も出ないか?…」

沼田、数馬から目線を外す。
数馬のIS05が着信する。
数馬、IS05を見る

数馬「誰だ?」
沼田「この前会った子です…」
数馬「年は?」
沼田「あぁ…学生さんです…」
数馬「やったのか?」
沼田「いや…」
数馬「check… do… plan…」

沼田、数馬を見る。
数馬、苦笑する。

数馬「また会うのか?」
沼田「まぁ…おそらく…」
数馬「俺なら会わない…」
沼田「え?…どうしてですか?」
数馬「その画像は鏡越しで自分で撮った画像…目に奥行きがない……なのに微笑んでる……与える笑みじゃない…乞う笑みだ……セックス依存症のデジタル世代の産物だ…Sex Network Syndrome…アドレスを使い分け…端末を使い分け……キャラクターが分裂して…SWITCH文でCASE1になる…………そんなガキ職安通りにあふれてるぞ……D&G…GMW…A/E……CK…シンジュク・コレクションだ……失恋の傷を癒やすつもりが…いつのまにか乱交をおっぱじめるんだ…」
沼田「……」
数馬「何て口説いた?」
沼田「……」
数馬「仲良くしてください?…絡んでください?…遊んでください?…」
沼田「……」
数馬「吐息が触れあう距離に近寄ったら……こう囁け…『最後にキスをしたのはいつだ?』……」

数馬、身を乗り出す。

沼田「……」
数馬「腐臭がしたらフェラでもゴムを使え…」
沼田「…言い過ぎでは……」
数馬「なら気軽に見せるな……」
沼田「……」
数馬「……」
男4「……貫禄ありますねぇ…」

数馬、男4を見る。

数馬「……」

数馬、男4の向かい座る男5(23)を見る。
男5、携帯電話を見ている。

男4「マイミクなりませんか?」
数馬「やってない…」
男4「……」
数馬「生まれは?」
男4「え…佐賀です…」

数馬、沼田を見る。

沼田「…南の方…九州です…」
数馬「ここのルールを?」
男4「いや…知らないです…」
数馬「他人に関わるな…」
男4「……冷たいですねぇ…」

男4、笑みを浮かべている。

数馬「いやなら滋賀に帰ればいい……」
沼田「…佐賀です」
数馬「……」

数馬、沼田を見て、その目を男4に向ける。

男4「…一期一会を大事にしてるんで…」
数馬「立派だ……ここはセミナーか?」
男4「…いやぁ…」

数馬。コーヒーを飲み干す。

数馬「沼田行くぞ…」

数馬、立ち上がり席を後にする。
沼田、男4に会釈して席を立つ。

沼田「…話位聞いても……」

数馬、沼田を見る。

数馬「……お買いものしたいのか?」
沼田「……」

数馬、歩き出す。

○ アパート 廊下 (夜)
数馬、廊下を歩いている。
数馬、ある扉の前で止まり、扉を見る。
表札にコルクボードで「MIKI&NAOKO&TUBASA」と掲げてある。
数馬、表札の埃を吹き、扉の前の洗濯機の戸を開け、扉をノックする。

美紀の声「はい!」

数馬、ドアに顔を近寄せ、

数馬「数馬だ」
美紀「おお…入ってこいよ」

数馬、買い物袋を持ち扉を開け中に入る。
顔を背ける数馬。

タンクトップを着た美紀(29)、ベッドの上で直子(31)セックスしている。

数馬「ああ……出直すよ……」
美紀「気にするな…すぐ終わるからちょっと
待っててくれ…」
健児「……一服してていいか?」
美紀「好きにしろ……」

数馬、キッチン横の換気扇を回しタバコに火をつける。
その目線を美紀の背中に向ける。
美紀の背中の筋肉が躍動している。

美紀「……イクぞ…」
数馬「……」
美紀「んん……」

美紀、直子の中で射精する。
部屋の中に美紀の呼吸が響き渡る。
数馬、目を瞑る。

美紀、コンドームをゴミ箱に捨てベッドに腰かけアンダーウェアを穿き、呼吸を整える。

美紀「……待たせた…」

美紀、笑顔で数馬に目線を向ける。
数馬、目を開き頷く。
美紀、振り返り、

美紀「わりぃ…シャワー浴びたら翼迎えに行ってきてくれ…」
直子「……子供なんだから…」
美紀「んだと?」

直子、立ち上がり、シャワールームへ向かう。
直子、数馬とすれ違い様、照れ笑いをする。
数馬も応える。

数馬「……」
美紀「……」
数馬「試合は?」
美紀「来月だ…」
数馬「見に行くよ」
美紀「悪いな…」

数馬、部屋を見渡し、

数馬「で用って何だ?」

美紀、立ち上がり数馬に近寄る。
数馬、目線を床に向ける。

美紀、首にぶら下げてあるネックレスを外し、数馬の首に付ける。

数馬「何?」
美紀「誕生日だろ?やるよ……」
数馬「……」
美紀「ドイツのコインだ…」
数馬「……知ってんか?」
美紀「9月7日だろ?苦難を背負う乙女だ…」
数馬「……今は3月だ…」
美紀「……そうだな…」

数馬、コインを見る。
ナチスドイツのコインだ。

数馬「前から聞きたかった…これをどこで?」
美紀「アメ横…」
数馬「何故俺に?」
美紀「数馬…俺と目を合わせると…いつも目線をコインに向けてただろ?欲しいかと思
ってな」
数馬「……」
美紀「鏡見てみろ?似合ってるぜ」

数馬、目線を鏡に向ける。

数馬「……」

美紀、手を叩き、

美紀「勝呼んで祝おうぜ」
数馬「仕事は?」
美紀「今日は夜勤だ…」
数馬「そうか……」

数馬、目線をベッド脇に張ってある世界地図に向ける。

数馬「小学校の時、俺は馬鹿だから…これを見て鳥がキスしているイラストかと思って
た…」

美紀、目線を地図に向ける。

美紀「……」
数馬「ベーリング海峡で熱いキスをするんだ……」
美紀「俺がヤッてる時そんな事考えてたのか?」
数馬「……まぁな……」
美紀「誰か抱けよ…」
数馬「……何で?」
美紀「別に…」

その目を数馬に向け微笑む。

数馬「この街が好きか?」
美紀「……考えた事もない……数馬は?」
数馬「……」

数馬、世界地図の小さい日本を見ている。
美紀、苦笑する。
シャワー室から直子、出てくる。

美紀「俺も軽く浴びてくるわ……」
数馬「ああ…」

直子、タオルで髪を拭きながら、数馬に近寄る。
数馬、買い物袋を直子に手渡す。

直子「あ…ありがとう」

数馬、曇りガラスに目を向ける。

直子「1本貰える?」

数馬、直子に煙草のケースをかざす。
直子、1本くわえる。
数馬、ジッポをかざす。

数馬「どっか出かけないのか?」
直子「全然…」
数馬「あいつらしい…」

直子、ほほ笑む。

直子「数馬は?」
数馬「モンスターハンター?ホームパーティー?テニス?楽しい事が好きじゃない…」
直子「どうして?」

数馬、直子を見る。

数馬「……」
直子「……」
数馬「……」
直子「……セックスは?」

数馬、大きく煙を吐き、鏡の自分を見据える。
数馬、右胸に手を添える。
数馬、直子に目線を投げ、

数馬「女はエクスタシーに達すると死を考えるという…本当か?」

直子、苦笑する。

直子「知らない……男は?」
数馬「…虚しさだ……」

直子、微笑んで煙草をキッチンの蛇口を回し火を消し、床の衣類を着る。

○ 甲州街道 (夜)
人混みの歩道を歩く数馬・美紀・勝(30)。

勝「数馬、誕生日だって?」
数馬「……いや…」
勝「俺何にも買ってない…」

数馬、振り向き、

数馬「気にすんな…」
勝「2人共…歩くの早くねぇか?」
美紀「おめえが遅せぇんだ…それと歩いてる時話すんな」
勝「何で?」
美紀「人を避けながら話すんのが面倒だ」
勝「免許持ってないだろ?」
美紀「あ?」
勝「俺は車を避けながら…話ができる…」

勝、挑発的な目線で美紀を見る。
数馬、苦笑する。

数馬「…行くぞ……」

勝、路上の携帯ショップに寄る。

勝「ちょっと見ていこうぜ…」

美紀・数馬、立ち止まる。
勝、sony Ericssonのcybershotケータイを触る。
店員(25)、勝に近寄る。

勝「このスライドが滑らかで気持ちいい…」
店員「…よろしかったらこちらの色違いもお
手に取ってください…」
勝「…俺はピンクが好きなんだ……姉ちゃんのアソコとどっちが滑らかなんだ…」
店員「……」

数馬・美紀、苦笑する。

勝「見ろよ…デジカメみたいだ」
店員「16.2メガピクセル…暗い所でも綺麗に撮影できます……」
勝「暗い所で何を撮るんだ?…ハメ撮りでもすんのか?」
店員「……」
勝「数馬、auだろ?誕生日プレゼントにやるよ?」
店員「色はこちらのブルームピンクでよろしいでしょうか?」
勝「……あいつがピンク?舐めてんのか?…黒にしてくれ……」
店員「……在庫を見てまいります……」

店員、店内に行く。

勝「行こうぜ…」

勝、歩き出す。
数馬、美紀を見て勝の跡に続く。

○ セガフレード 南新宿店
奥の禁煙席に座る数馬・美紀・勝。

勝「減量って大変か?」

数馬、勝を見る。

美紀「別に…」
勝「コツとかあるのか?」
美紀「食欲を無くせばいいんだ」
勝「どうやって?」
美紀「俺は…匂いのある物を食わない…」
勝「そんなのあるか?」
美紀「プロテインとか…パンだとか…冷えた飯さ…」
勝「……」

数馬、勝を見る。
美紀、数馬の目線を追う。

美紀「…ああ…悪ぃ…そういう訳では…」
勝「気にするな…俺もしてない…」
美紀「……ならいいんだ……」
数馬「ちょい小便行ってくるわ……」

数馬、コーヒーを口にし席を立つ。

美紀「ああ…で、痩せたいのか?」

数馬、トイレに向かう。

勝「気にする事言うよなぁ…」

美紀、笑う。

○ 同 トイレ内
数馬、壁に寄り掛かり一服している。
数馬、ふと目の前の女性の写真画に目を奪われる。

数馬「Hi What are you doing? May I ask a question? Do you enjoy
watching dick? Do you get tired? Me? I saw too mach…I got tired…big small  black.white. pink. curvy…you too? So we are a lover…Please teach me a  taste of woman.thanks?no thanks…see you next.」

数馬、女性の写真画にキスをする。

数馬「計算高い女だ…2度上げて2度下げるのか…プラマイ0だ…」

数馬、吸い空を水洗に浸し、踵を返す。
数馬、扉を開け、美紀達が座ってる席を一瞥し、カウンターで水を注ぐ。

数馬「……」

数馬、もう一度、美紀達が座っている席を見る。
女子店員(23)、数馬に近寄る。

女子店員「どうかされました?」
数馬「……生まれ変わったらバリスタになりたい……」
女子店員「私もです……」

数馬、女子店員を見る。
笑顔の女子店員。

数馬「……同じ羽音を奏でた……俺と結婚しないか?」
女子店員「いいですよ……」

数馬、微笑む。
勝、数馬を見る。

勝「何口説いてんだよ……」

美紀、振り向き数馬を見て微笑む。

数馬「下品な野郎だ……」

数馬、席に戻る。

○  新宿 駅前デパート 男子トイレ(昼)
沼田、小便をしている。
数馬、洗面器の前でIS05を打っている。
男6(19)、数馬の隣でポケットに手
をつっこんでいる。
スーツ姿の男7(26)、小便を終え、
洗面器に向かう。
数馬、場所を空け、IS05をしまう。
男7、手を洗いエアタオルで手を乾かす。
数馬、ため息をつく。
男6の携帯電話、着信音を鳴らす。
男6、携帯電話を見て数馬を見る。
男7、髪型を確認し扉を開け出ていく。
沼田、数馬に目線をやる。

数馬「……」

数馬、沼田を見る。
沼田、頷く。
数馬、男6を見る。

数馬「行こう…」

男6、軽く頭を下げる。
数馬、個室に入り、男6、続く。
沼田、辺りを見まわし、個室に入る。

○ 同 個室内
数馬、背中を向けている。
沼田、ゆっくりと錠を落とす。
数馬、踵を返し、男6と向き合う。

数馬「……」

沼田、トートバックからPS-150を取り出し、ワイコンを付ける。
沼田、数馬を見る。
数馬、頷く。
沼田、recを押す。
数馬、男6を見据える。
男6、数馬に歩み寄り、キスをする。
数馬、男6の頭を掴み、右手を男6のシャツの中に入れる。
男6、数馬の腕を掴みその手を数馬のスウェットの中に突っ込む。

男6「エロいすね…」

数馬、スウェットをまさぐる男6の手を取りコンドームを取り出す。
男6、数馬の股間をまさぐる。
数馬、男6を見る。

男6「……兄貴の咥えていいですか?」

数馬、男6を見る。

数馬「……」

沼田、ビューファインダーから目線を外し、数馬を見る。
男6、しゃがみ、数馬の股間を揉む。
数馬、その様を見降ろす。
沼田、数馬に近寄る。
水洗トイレのセンサーが感知し、水が流れる。
数馬、沼田を見る。

○  同 トイレ内
男8(29)、個室の前に立っている。

○  同 個室内
息を殺している数馬。
沼田、PD-150を持つ手を下ろす。
男6、数馬のジーンズを脱がそうとする。
数馬、男6の髪をむしり掴む。

○  同 トイレ内
男8、扉をノックする。

○  同 個室内
数馬、ゆっくりとノックする。
間があってノックが返される。

警備員の声「…巡回でーす…」

数馬、ため息をつく。

○  同 トイレ内
警備員(47)、扉の前に立つ男8に近寄る。

警備員「どうしかしました?」

男8、警備員を見る。

男8「……」

警備員、ノックをする。

警備員「どうしました?」

○ 同 個室内
数馬、扉に耳を近付ける。

数馬「歓迎会はしたか?」

沼田、首を振る。
数馬、沼田に微笑む。

数馬「あ……重……」
沼田「…重則です……」

数馬、頷く。

数馬「重則……すまない…」
沼田「え?」

数馬、沼田の腹を殴る。
呻く沼田。
数馬、沼田を起こし、もう一度腹を殴る。
男6、その様を見ている。

警備員の声「どうしました?」

数馬、水洗センサーに手をかざすが水が出てこない。
数馬、センサーに向かい指を鳴らす。
水が流れる。
数馬、トートバックを肩にかけ、沼田を抱え男6を見る。

○  同 トイレ
扉が開き、沼田を抱えた数馬が出てくる。

警備員「……」
数馬「……」
警備員「……大丈夫ですか?」
数馬「……沼田…大丈夫か?」

沼田、首を縦に振る。

数馬「…じゃ……スイマセン……」

数馬、警備員と男7前を素通りしようとすると、モップを抱えた清掃係の中年女性(67)と目線が合う。

数馬「……」

中年女性、数馬を見て力なく微笑む。
数馬、目線を伏せトイレを後にする。

○  青梅街道
運転している数馬。
数馬、沼田を見る。
沼田、うつむいている。
数馬、車道に車を停める。

数馬「何か飲むか?」
沼田「……いえ大丈夫です…自分買ってきましょうか?」
数馬「……」
沼田「……」
数馬「1番好きなコーヒー豆は?」
沼田「……いえ特には……」
数馬「俺はマンデリンだ…」
沼田「……」
数馬「……」

数馬、後ろを振り向き、ドアを開けようとする。

沼田「自分行ってきます…」

数馬、沼田を見る。
数馬、ポケットから小銭を出す。
沼田、小銭を受け取り出て行く。
数馬、ため息をつく。
数馬、IS05を取り出し、モニターを見て、
窓の外へ目をやる。

○  同 歩道
歩道を歩く沼田。
角のコンビニに入る沼田。

○  青梅街道
腕時計を見る数馬。

○  歩道
コンビニ袋を持つ沼田、歩道で立ち止まる。
沼田、振り向く。
沼田、小走りで歩く。

○  青梅街道
数馬、is05で電話をかける。

数馬「……沼田…いい男がいたか?」

○  歩道
電話に出る沼田。

沼田「……すいません、道に迷いました…ナビしてください…」

○  青梅街道
電話に出る数馬、ため息をつく。

数馬「……そこから何が見える?……どんなアパートだ?…その隣は?……そこの通り
から2つ目の交差点を右曲がり…1つ目を左だ……」

○  歩道
沼田、電話をもち小走りで歩く

沼田「すいません…位置情報をメールで添付しますので……あ…そこは何通りですか?
コンビニで聞いてきますのでメールで書いて頂けますか?」

○  青梅街道
電話に出る数馬、首にIS05を固定し、

数馬「……そこで立ち止まれ…胸からcrossを取り出し…手の平にこう書け…2つ目の角を右だ…1つ目を左だ……」

数馬、右指で2回鳴らし、左手で1回鳴らす。
数馬、電話を切る。

数馬、右指で2回鳴らし、左手で1回鳴らす。
数馬、電話を切る。
数馬、軽く息を吐き、車道の外に目をやる。
しばらくして沼田、助手席の戸を開ける。
息を整える沼田、コーヒーを数馬に手渡す。
数馬、コーヒーを受け取る。

数馬「沼田…次はもう少し早目に頼む…」
沼田「……はい…」

○ 事務所 (昼)
事務所の扉を開ける数馬。
後に続く沼田。

石塚(47)、経理室前の売上報告書を見ている。
石塚、振り向いて、

石塚「カズ…悪いけど撮影行ってくれる?ついでに帰りでいいから配達行ってきて…」
数馬「ああ…さっき撮影でした…」

石塚、ポケットからバイアグラの瓶を取り出し、数馬にかざす。

数馬「……」
バイアグラの瓶を受取る。
数馬、踵を返し沼田を見る。
沼田、床に目を落としている。

○ 新宿南口 交差点 (夕方)
信号待ちするトートバックを肩にかけ
た数馬とジェラルミンのケースを持った沼田。
数馬、沼田を見る。
沼田、前方を見ている。
信号、青になり沼田、1歩を踏み出す。
数馬、沼田に続く。

数馬「免許あるか?」
沼田「ありますよ」
数馬「運転できるか?」
沼田「あ、ハイ」

数馬、沼田を見る。

数馬「……」

数馬、ポケットから鍵を取り出す。

○ 甲州街道 (夕方)
歩道を歩く数馬と沼田。

数馬「この街にずっといるが…変化に気がつかない……馴染みの店が白幕に覆われ平地になり…ラーメン屋ができあがってる…あっという間だ……テナント募集中のビルが至るところにありいずれ埋まる…それにたり前だと思うようになる……歩く時いつも思う…俺自身が誰かの風景の1部だって…」
沼田「……」
数馬「欲望があるから変化を好むのか?」
沼田「……」
数馬「変化が欲望を生むのか?」
沼田「……」
数馬「輝く都市の条件は?」
沼田「分かりません……」
数馬「朝立ちの法則だ…」
沼田「……」

数馬、足を止め、高層ビルを見上げる。

数馬「ファイザー…知ってるか?」
沼田「名前は…」
数馬「世界一でかい製薬会社だ……」
沼田「……」
数馬「金と銀の薬がある…どっちが強いと思う?……銀だ……」
沼田「…何故出演を?サングラスなしで…」
数馬「サングラスはしてるさ…」

沼田、数馬を不審気に見る。

数馬「たまに視界が真っさおになる……」

数馬、沼田を見る。

沼田「……」
数馬「『青い瞳が僕をまるで炎の輝きの様に稲妻をはなつ』…」
沼田「……」
数馬「……」
沼田「……」
数馬「…今は2011年……神話が滅びた時代だ……フィーバーも去った……生きるのに標語が必要か?」
沼田「いや…」
数馬「惰性の法則さ…俺という存在の主体は俺にはない……だが死ぬ時は自分で選ぶ…アフロディーテが嫉妬するような美しい死に方をしてやる……俺の死におくり人は不要だ…」
沼田「……」
数馬「……ビデオ見てる奴は、俺の名前が『数馬』だと知ってやがる……自己紹介してないのに………皮肉だと思わないか?虚構の裏には真実があるんだ…真実の裏には虚構があるんだ……だから数馬だと言ってやる…糞や精液にまみれて…汚してやる…」
沼田「……」
数馬「……数打っちゃ当たるの種馬の『数馬』だ…覚え方は簡単だ……」
沼田「……いい名前だと思いますよ」

数馬、振り向き沼田を見る。

数馬「あ?」
沼田「自分の名前4文字なので3文字の人に憧れます……」

微笑んでいる沼田。
微笑む数馬、笑みを消す。

数馬「沼田?」
沼田「ハイ」
数馬「そのまま俺を見てろ……3秒後に前に進むぞ……」
沼田「ええ…」
数馬「後ろを振り向くな…」
沼田「ハイ?」
数馬「3…2…もう少し笑え……」

沼田、苦笑し、

沼田「何すか?」

沼田、後ろを振り向く。
数馬、ため息をつく。
警官(28)、数馬に近くに近寄る。

警官1「ちょっとよろしいですか?」
数馬「ハイ?」
警官1「職業は?」
数馬「ハイ?」
警官「職業?」
数馬「……技術職です」

警官1、数馬を見据えている。

警官1「交番までよろしいですか?」
数馬、警官を見る。

数馬「…いいですよ」

○ 交番
警官1、数馬の前に立ち尽くす。
奥から警官2(37)、現れる。

警官1「鞄見せてもらえますか?」
数馬「……」

数馬、トートバックを机の上に置く。
警官1、トートバックをまさぐる。

警官1「仕事帰りですか?」
数馬「ええ…」
警官1「お仕事楽しい?」
数馬「…それなりに…」
警官1「これ何ですか?」
数馬「ミチコ・ロンドンです…高校の時から愛用しています…」
警官1「……」

警官、数馬を見る。
警官、その目を鞄に移し、

警官1「これは?」
数馬「潤滑油です…コラーゲン配合…」
警官1「何に使うの?」
数馬「……愛の営みに……そっちはpjurローション……滑りがいい……」
警官1「……」

警官、oshmansの袋を取り出し、

数馬「これからジムで泳ごうかと…」

警官、袋を開け、中からバスタオルと競泳パンツを取りだす。

警官1「……濡れてますよ?」
数馬「……今朝も行ってきました……」
警官1「……」

警官1、単行本を取り出し、中身をめくる。
単行本から、しおりが落ちる。

数馬「ランボー…『地獄の季節』……」
警官1「パートいくつだっけ?」
数馬「……」

警官、単行本を閉じ鞄にほおり投げる。
警官1「……この薬は?」
数馬「……」

沼田、数馬の背中を見る。
警官1「身分証明書ありますか?」
数馬「……」

数馬、財布を取り出し、中から免許証を取り出し、警官に渡す。
警官1、免許証を一瞥し警官2に手渡す
警官2、免許証を受け取り奥へ進む。

数馬「……バイアグラ……ハルシオン……ジェイゾロフト……ベタナックス……エビオス…亜鉛…アルギニン…威哥王……メチコバール……」

警官1「どこでこんなに…」
数馬「…薬局…ドラッグストア…viaインターネット…」
警官1「……」

警官、粗雑に財布をまさぐる。

警官1「この病院?」
数馬「ええ…」
警官1「……そのケースは?」

警官、沼田の持つジェラルミンケースを顎で指す。

沼田「……」
数馬「……沼田…開けろ…」
沼田「ハイ……」

沼田、しゃがんでジェラルミンのケースを開ける。

警官1「そのカメラは?」
沼田「sonyのPD150です…覚えても仕方ないですよ…」

数馬、振り返り、沼田を一瞥する。

警官1「中身見せてもらえる?」
数馬「……見たってつまんないんですよ…」
警官1「何が映ってるんの?」
数馬「human」
警官1「はい?」
数馬「エロスとタナトスに苦しむ…human…」
警官1「……再生できる?」
数馬「……」

沼田、数馬を見る。
数馬、振り向き頷く。
沼田、PD150を持ち上げ、テープを巻き戻す。
数馬、目線を外に投げかける。

数馬「……」
警官1「……」
沼田「あ……」
数馬「どうした?」
沼田「ベッテリー切れです……」
数馬「予備は?」
沼田「……忘れました…」

数馬、ため息をつく。

警官1「……」
数馬「……」

警官、数馬を見ている。
奥から警官2、顔を出す。
警官1、振り返る。
警官2、細かく首を横に振る。
警官1、数馬を見据えている。

数馬「……」
警官1「……もう行っていいよ」
数馬「……ハイ……」
沼田「……」

○ 新宿2丁目 ゲイショップ「dicks」前
段ボールを抱える数馬と沼田。

○ 同 ショップ内
黒い陳列棚にDVDがぎっしり詰まっている。
奥のレジカウンターの店員(22)、PCモニターを見ている。
数馬、段ボールを抱えレジカウンターの前に立ち、

数馬「こんちは…新作の納品です…」
店員「どうも…そこに置いてください」

数馬、段ボールをカウンターに置き、内ポケットに手を入れ店員に納品書を渡す。
店員、注文書を見比べダンボールの商品数を数える。
数馬、目線を店内に泳がせる。
店長・佐藤(37)、レジカウンターの奥から現れる。

佐藤「久しぶり……数馬…」

数馬、顔を曇らせる。

数馬「……先週来てばっかだ……」
佐藤「新作か?」
数馬「ああ…」
佐藤「どんな内容だ?」
数馬「見れば分かるよ……」
佐藤「出たんだろ?詳しく教えてくれ?」
数馬「パッケージに書いてある」
佐藤「相手はノンケか?あ?どんな奴だ?」
数馬「覚えてない……」

佐藤、笑みを消し、

佐藤「……何だその態度は?……お前んとこと取引しねぇぞ……」
数馬「……」

佐藤、店員に向かい、

佐藤「数えなくていい…全部返品だ」
沼田「……」
佐藤「……」

佐藤、数馬を見ている。

数馬「ちょっと待ってくれ…さっきまで撮影だったんだ…疲れてたんだ…」

数馬、笑みを作る。
佐藤「……」

数馬、段ボールからDVD1本取り出し、パッケージを見る。

数馬「あ、こいつか…確か自衛隊だった…」
佐藤「ホントか?」
数馬「本当だ…歳は確か…」

数馬、パッケージを見る。

沼田「20です」
数馬「そうだ20歳…奥二重で切れ長の目をしていた…」
佐藤「それで?」
数馬「俺は彼に言った…『膝まついて美味そうに咥えろ』と」

佐藤、数馬を見る。

数馬「彼は俺を睨みながら近寄り、膝まついた…俺は内心ビビったが彼を見下ろした…
奴はぎこちない手つきで俺のアソコをさすってきた…」
佐藤「アソコってどこだよ?」
数馬「あ?」
佐藤「長さ18cm…上反り・ズル剥けの雄マラだろ?」

佐藤、ニヤつく。

数馬「……」
佐藤「それで…そいつはノンケか?」
数馬「…間違えない…」
佐藤「何故分かる?」
数馬「俺の勘さ…」
数馬「でどうした?」
数馬「俺のサムライソードはキツキツのジーンズから解放され天を仰いだ……」
佐藤「……」

数馬「奴はクールな顔立ちをしてた…だけど口の中はベリーホットだった…『鉄は熱いうちに打て』だ…俺は見上げるよう奴に命令した…奴は屈辱に満ちた顔で俺を睨みながら…」

スーツ姿の客(38)、入店する。

佐藤「もういい…」
数馬「……これからがいいとこなんだ…」
佐藤「客の邪魔だ…引き上げてくれ…」
数馬「……」

数馬、踵を返す。
沼田、後に続く。

佐藤「おい…これ持ってけ…」

数馬・沼田、振り返る。
佐藤、ビール瓶を2本かざしている。

数馬「車だ」
佐藤「持ってけよ…」
数馬「……」

数馬、ビール瓶を受け取り踵を返すが振り向き、

数馬「栓抜きは?」
佐藤「持ってんだろ?……おまえのキツマンで抜けよ…」
数馬「……」

数馬、1本を沼田に渡し店を出ていく。

○ 同 路上
フォルクスワーゲンCCV6に近寄る数馬と沼田。

○ 車内
助手席に座る数馬。

数馬「……」

沼田、エンジンをかけて数馬を見る。

沼田「行きますか?」

数馬、前方を見ている。

数馬「……窓を開けてくれ」

沼田、運転席を見渡し、

数馬「そこだ…」

沼田、ドア下の開閉ボタンを押す。
ゆっくりと窓が開く。
数馬、ビール瓶を窓の外の壁に投げつける。
雑居ビルの壁に当たり砕け散るビール瓶。
荒い呼吸をする数馬、背もたれに身を預ける。

数馬「ナチスは同性愛者を何人殺したか分かるか?」
沼田「え?……分かりません……」

数馬、目線を沼田に向ける。

数馬「元教師だろ?」
沼田「すいません……」
数馬「およそ2万人だ……ピンクトライアングル……三角形の頂点が下を向いている……東京タワーとは大違いだ……生存率75パーセント……ゲイは確率が好きだろ?…」
沼田「……」
数馬「……ヒトラーの気持ちが分かるよ……」

沼田、数馬を見る。
数馬、宙を見ている。

沼田「本気ですか?」
健児「……怒ったか?」
沼田「……」
健児「……沈黙は金か?俺は銀が好きなんだ…だから叫ぶ……お前のケツを温めているのはヒトラーが作ったんだ…フォルクスワーゲン PASSAT CC V6……俺の名義じゃローンも組めねぇ……」
沼田「…『シンドラーのリスト』は観ましたか?」
数馬「……観たさ…勃起しながら……」

沼田、唖然とする。

数馬「ホントさ…高2ん時…初めて会ったゲイに歌舞伎町の映画館に連れてかれた…冒頭でシンドラーがナチの高官に酒を振る舞うシーンがあるだろ?あの辺で揉まれた……2時間半勃ちぱなしだ……嫌な奴だった……3ヶ月後…カート・コベインが頭を吹き飛ばした…3ヶ月後…佐々木義久が死んだ…」

数馬、うつ向く。

沼田「誰ですか?…佐々木義久って…」
数馬「……」
沼田「……」
数馬「……続きを聞きたいか?先生?」

数馬、沼田を見る。
沼田、目線を外す。

沼田「……」

数馬、首のネックレスをかざし、ナチスのコインを見せる。

数馬「見ろ」

沼田、コインを見て大きく溜息をつく。
数馬、自虐的な笑みをこぼす。

数馬「表はハーケンクロイツ…帝国の鷲さ…裏は何だと思う?」
沼田「……分かりません」

数馬、コインを裏返す。

数馬「ヒンデンブルクさ…」
沼田「……」
数馬「意味が分かるか?」
沼田「……」
数馬「皮肉だよ…丁度いい…俺は皮肉が好きなんだ……皮の下の肉さ……温もりがあるに違いない……嗅ぎ取ってやる…」
沼田「何でそんな物を…」
数馬「コントラストさ…俺は光と影を同時に抱える美しい存在なんだ……」
沼田「数馬さん…こっちの友達はいますか?」
数馬「……こっちってどっちだ?」

数馬、沼田を見る。

沼田「……」
数馬「ここしか知らねぇよ…」
沼田「……数馬さんは何でそんな自分を痛めつけるんですか?」
数馬「……」
沼田「もっと自分を大切に下さい」
数馬「俺はおめぇの生徒じゃねぇ!」
沼田「……」
数馬「未成年に手ぇ出してクビになったんだって?偉そうな講釈を垂れるな!」
沼田「……相思相愛でした…」
数馬「相思相愛?……ロマンチックだな?…せめて正規恋愛って言えよ…」
沼田「……」
数馬「聖職者が今じゃ生殖者だな…沼田…お前も脱げ…1回につき2万稼げるぞ……サングラスなしだと3万だ…ガキじゃないと勃たないか?」
沼田「……」
数馬「それとも深く考えず前に進みましょうってか?俺はターミネーターじゃねぇんだ!」
沼田「……」
数馬「美しい日本語を言ってやろう……」
沼田「……」
数馬「F友…キメション…nm交尾……」
沼田「……」
数馬「光の優越性だ……」
沼田「……」
数馬「俺には目的がある…英語をマスターしたらドイツ語を覚えようと思う…それで脚
本を書く…ヒトラーとレームの友情を描きたい…タイトルは『鉄の絆』だ……勿論被害者感情も考えている……鉄は案外もろいからな……」
沼田「……」
数馬「1つの言語…1つの民族……1つの性……」
沼田「……」
数馬「……」
沼田「……」

沼田、息を軽く吐き、前に目をやる。

数馬「……」
沼田「……」
数馬「……」
沼田「……」

沼田、数馬を見る。
数馬、ハンドルに乗せる手が震えている。
数馬、沼田の目線を感じる。

数馬「アル中じゃない……」
沼田「何で不眠症に?」
数馬「……先生の紹介だ……」
沼田「……」

数馬、大きく息をはき、

数馬「……声が聞こえる……」
沼田「……何て?」

数馬、沼田を見て、

数馬「(死んでしまえって)」
沼田「……」
数馬「今『アドルフヒトラーの青春』を読んでる…3点類似方だ…8個見つけた……だから煙草を吸ってるんだ……」
沼田「……」
数馬「アダルトビデオの存在意義は?」
沼田「……自分で抜くためですか?」
数馬「優等生の答えだ…今は違う…クラブ行った事あるか?あそこにVJが作った万華
鏡みたいな映像が流れるだろ?あれとおんなじだ…ノリよくヤル為にある…」
沼田「……」
数馬「性犯罪者にGPSが付けられるらしいな…」
沼田「……」
数馬「……」
沼田「……」
数馬「くくられるのは嫌か?なら言い返そう…俺は性犯罪・HIV感染の拡大に一役かっている……」

沼田、溜息をつく。

沼田「もっと前向きな事考えませんか?」
数馬「毎月『お薬手帳』拝んでるよ……」
沼田「……」
数馬「……」
沼田「…加藤数子さんって…お母さんなんですか?」
数馬「……加藤と言え……」
沼田「……」
数馬「……履歴書も書けない…」
沼田「……」

数馬、苦笑し、

数馬「俺に何がある?俺はもう34…しかもアンダーグラウンドの住人だ……」
沼田「……」

数馬「俺が好きで鍛えてると思うか?あ?…セックスする為の筋肉なんて欲しくねぇ…30過ぎて好きで日焼けしてると思うか?…肌が黒くなるのはいい…だけど乳首が黒くなるのは許せねぇ…だからSPF100のコパトーンを塗ってるんだ…」

数馬、苦笑する。
沼田、平然としている。
数馬、沼田を見て笑みを消す。

沼田「……」
数馬「教科書はまだクラウンか?」
沼田「え?」
数馬「子猫と遊んでたアリスは暖炉の上にのぼり銀縁の鏡に手を伸ばしました……」
沼田「……」
数馬「ねぇキティ…鏡のお家には素敵なものがあるに違いないもの…ねぇまねっこであ
っちへ何とかして入れる事にしようよ」
沼田「……」
数馬「その瞬間…アリスは……」

数馬、バックミラーに脂ぎった指紋を鏡に張り付ける。

数馬「おうちに引き戻されました……」

数馬の指先、力強く脂跡を付けながら下にさがる。

沼田「……」

数馬、バックミラーを見て角度を変える。

数馬「よく見ろ…鏡の向こうの世界…鏡の世界は逆さまの世界……生は死…愛はリビドー…喜びは悲しみ…金はトイレッペーパー…便所はヒルトンデラックスルーム…キングフロア…ハーケンクロイツは卍マーク……」
沼田「……」
数馬「だけどヒルトンは好きじゃない…洋室なのに襖に障子……」
沼田「……」
数馬「……逆さまじゃないものがひとつだけある……去年思いついた……」
沼田「何ですか?」
数馬「TOOT」

数馬、苦笑する。

数馬「……俺のアンダーウェアは全部TOOTだ……あんま好きじゃないが…しょうがない…」
沼田「……」

数馬、沼田を見る。

数馬「お前はお試し期間中だ…まだ引き返せる……それともまだクリエイティブな事がしたいのか?」
沼田「……」
数馬「……」
沼田「……逆さまじゃないものまだありますよ…」
数馬「…言ってみろ……」
沼田「…人の気持ちです…」

数馬、沼田を凝視し苦笑する。

数馬「…ハートのデザインは左右対称だが…TOOTには負けてる…」
沼田「……いい所を信じませんか?」
数馬「……ヒトラーは母親想いで貞操観念があったんだ……」
沼田「だったら…枕の下に『アドルフ少年の思春期』を入れて夢精すればいいじゃないですか!」

数馬、沼田を見る。

数馬「……」

沼田「親衛隊の行進を見ながらチンコをしごけばいい!今日は黒にしようか?やっぱりカーキにしようって…」

数馬、笑い出す。
沼田、笑みをこぼす。

数馬「……疑って安全を保つより…信じて裏切られた方がましと思ってた……」
沼田「……中庸が肝要ですよ…」
数馬「偏見は物差しだ……だから3年もやってられんだ…」

沼田、数馬を覗き見る。

沼田「3年?……その前は……」

数馬、沼田を見返す。
数馬、内ポケットから名刺ケースを取り出し、沼田の腿に置く。

数馬「……デジタルコンテンツ部…チーフ・プランナー……メモ用紙に使え……」
沼田「……」
数馬「この車は棺桶だ……」
沼田「……」

数馬、運転席を指差し、

数馬「ここに座ってた人間が2人…死んだ……」
沼田「……」
数馬「テルマ&ルイーズ観たか?……俺と崖をFUCK OFFしたくなきゃ……こんな仕事辞めろ…」
沼田「……」

数馬、沼田を見る。

数馬「現実の逆さまは?」
沼田「……バーチャル…じゃないですか?」
数馬「昔は『夢』だった……夢は創造物でななく日常の延長らしい……俺の夢はhell…」

沼田、数馬を見る。

数馬「……」
沼田「……あきらめたら終わりですよ…」
数馬「TOEICのスコアは?」
沼田「え…720です」
数馬「俺は840だ」

沼田、数馬を見入る。

数馬「気休めはいい……」
沼田「……」
数馬「車を出せ…」
沼田「……はい……」
数馬、沼田を見る。
数馬「沼田……さっきの演技良かったぞ…」

沼田、苦笑する。
数馬、つられて苦笑する。

○ マンション 一室 (夜)
キッチンで料理をする健児。
扉が開き、数馬が入ってくる。

健児「お疲れ様……」
数馬「ただいま……」

健児の横で手を洗う数馬。
健児、数馬の横顔を窺う。

数馬「何作ってるんだ?」
健児「ビーフシチュー」
数馬「次からもっと軽いものにしてくれ…」
健児「何か食べてきた?」
数馬「いや……」

数馬、ポケットから万札を7枚取り出し、健児の後のポケットに入れる。
数馬、一歩踏みだし、思い出したかの様に健児のポケットに1万円入れる。

数馬、上着を脱ぎリビングへ歩む。
その背を見送る健児。

数馬「何か手伝うか?」
健児「いいよ……じゃあテーブル拭いといて…」
数馬「ああ…」
健児「ピンクじゃなくてグレーのだから…」
数馬「ああ…」
数馬、テーブルの箱に気がつく。
数馬「…何だ?」
健児「……」
数馬「今日は何かの日か?」
健児「……開けていいよ…」

数馬、amazonの箱を開ける。

数馬「…sony……シェイバーか?…nationalの髭トリマーは酷い代物だった…名前を変えれば……容量4GB…最大録音時間1073時間……スポットクリアも酷い…あれを使ったら鼻が真っ赤で…世界のエリートも大したものを……プレゼントはありがたいが…1000時間も何を録音するんだ?」
健児「……たまにだけど……話してる時…意味の分からない事を口ずさんでるから……」
数馬「……」
健児「…悪く捉えないで欲しい…気味が悪いとか…怖いとかじゃなくて…」
数馬「いつ気付いた?」
健児「…去年位…」
数馬「…何って言ってた?」
健児、首を振る。
数馬「……」
健児「……」
数馬「……」

○ 同 寝室 (時間経過)
健児、数馬の背後を抱きつき、映画を観ている。
数馬、TVモニターを眺めている。
健児、振り返り数馬の顔を窺う。

数馬「観なくいいのか?」
健児「巻き戻すからいい…」

数馬、リモコンを手にする。

健児「いいよ」
数馬「なら観ろ…」

健児、TVモニターを観る。

数馬「字幕を見てるのか?」
健児「んん…」
数馬「疲れないか?」
健児「何が?」
数馬「文字と映像を見比べて…」
健児「そんなの気にしないよ…」
数馬「何故日本で漫画が流行ってるか分かるか?」
健児「また長いの?話?」

数馬、苦笑する。

数馬「ならいい……」
健児「聞くよ」
数馬「文部科学省の素晴らしい教育カリキュラムのおかげで日本人は6年間英語してもしゃべれない…結果日本人は絵と文字を分離して考えるようになった…だからさ…」
健児「……」
数馬「日本人には素地として紙芝居がある……」
健児「誰の意見?」
数馬「俺の見解だ…」

健児、苦笑する。

数馬「…客と仲良くなりたいんなら『one peace』の話題をすればいい……理想の上司なら…なんとか…心に響く名言ベスト5…漫画家も先生だからな……」
健児「……」
数馬「税理士はなんて呼ばれてる?」
健児「……神岡さん…」
数馬「……」
健児「数馬は何で物事を深く考えるの?」
数馬「スタジオボイス…95年1月号の特集は『シネマ・スタッフ・サーキット』……サブタイトルは『もっと深く、映画を知るために』……」
健児「今は2011年だよ……」
数馬「……脳を鍛えたいんならプルトンの自動書記の詩を読めばいい…1行前の意味が分からないから…全然進まないんだ…おまけに安く済む…」
健児「…強迫観念を促すには否定感情を植え付けるのが効果的なんだよ……」
数馬「誰の意見だ?」
健児「上岡健児……」
数馬「……全てを受け入れたら…俺なんか欲望の渦におぼれ死んでいる……」
健児「まっすぐ立って…足を揃えて座り…自分の足場を常に確かめるんだ……」
数馬「……金の使い方も分からない…」
健児「俺が教える……」
数馬「…すれ違った奴が革ジャンを着てると…俺がいつのまにか着ている…」
健児「数馬は裸でも価値があるよ…」
数馬「……」

健児、数馬の手からリモコンを取り、TVを消す。

数馬「観ないのか?」
健児「いいよ…明日時間合ったら観るよ…」
数馬「この作品を作った人に失礼だろ?」

健児、苦笑する。

健児「借りた映画は全部観るの?」
数馬「今んとこ『気狂いピエロ』と『ユリシーズの瞳』以外は……スタッフロールまで
な……最近は観る気もしない……」
健児「……」
数馬「昔スタンプラリーをしたか?」
健児「何それ?」
数馬「……調布だろ?」
健児「んん……」
数馬「小田急線と京王線…どっちの沿線の子供が成績がいいか分かるか?」
健児「分かんない…」
数馬「残念だが小田急だ…車内に地図があるだろ?全部の駅が均一の間隔だ…だけど実際は違う…新百合ヶ丘から新宿行くより小田原行く方が時間がかかる…小田急を使う子供は社会の不条理を体で覚えるんだ…6対4の割合で…」
健児「……」
数馬「俺は京王線の方が好きだ……昔から……6000系……知ってるか?肌色で左右非対称の瞳をしてるんだ…美しいデザインだ…」

健児、数馬を見つめる。
数馬、ICレコーダーを消す。
微笑み返す健児。

健児「……数馬…来週の週末時間ある?」
数馬「何で?」
健児「実家行くんだ…母親の誕生日なんだ…
一緒に行かない?」
数馬「カムアウトしてんのか?」
健児「んん…とっくに」
数馬「……」
健児「親に会って欲しいんだ…」
数馬「正気か?」
健児「んん…」
数馬「……」
健児「……」
数馬「付き合って2年か?」
健児「……」
数馬「…俺よりいい男がいないのか?」
健児「どういう意味?」
数馬「…男は選べるだろ?…お互いいい歳だ…」
健児「数馬だってちゃんと仕事してるんでしょ?」
数馬「……」
健児「家賃も入れてくれてるし…」
数馬「……」
健児「料理は下手だけど…」

数馬、苦笑する。
健児、つられて苦笑する。

数馬「…来週か?考えておくよ…」
健児「ありがと……」
数馬「そろそろ寝るか?」
数馬、サイドテーブルの照明を落とそうとする。
健児「んん…でも目が覚めちゃった…」
数馬「……」
健児「俺達最近してなくない?」
数馬「……疲れてんだ…」
健児「じゃキスだけ」

数馬、健児にキスをする。

健児「…思ったんだけど……キスする時、目を開けてるよね?」
数馬「…え?」
健児「ドキュメンタリーで見た野生のキツネみたい…」
数馬「…キツネのキスを見たのか?」

健児、苦笑する。

健児「前さ…言ってたよね…何だっけ?アニメが嫌いな理由…」
数馬「…観ないだけだ……」

健児、ICレコーダーを点ける。

健児「何で?」
数馬「成長の邪魔だ…」
健児「……」
数馬「アニメーションは命を拭きこむという……前提として命がないって事だ……サザエさんもちびまる子ちゃんも成長しない……昔パズーを思い浮かべながらオナニーしてたんだ…シータに嫉妬したよ……10年後に…命がないって気付いた…」

健児、苦笑する。
数馬、ICレコーダーを消す。

健児「今度は俺がタチやるよ」
数馬「俺が掘られるのか?」
健児「嫌だ?」
数馬「当たり前だろ?」
健児「大丈夫だって」
数馬「……分かった…今度ネットでやり方調べておくよ……」
健児「教えるって…」
数馬「そんな話聞きたくない…」

健児、苦笑する。

数馬「……健児……この毛布は自分で買ったのか?」
健児「…んん…」
数馬「……次買う時は無地のベージュにしてくれ……」
健児「どうして?……」
数馬「……ベージュなら洗っても…干しても…色褪せが目立たないだろ……」
健児「……今のプロポーズ?」

数馬、健児を見る。

数馬「……ああ…」

数馬、サイドテーブルの腕時計を見る。

数馬「もう寝よう…」
健児「…んん…おやすみ……」
数馬「おやすみ……」

数馬、照明を落とす。

○ 男9のマンション (昼)
数馬、ツナギに着替えてる。
腰にタオルを巻いた男9(23)、右手にイチジク浣腸を持つ。

数馬「それをケツに入れたら…ぎりぎりまで我慢してトイレで流してくれ……そしたらシャワーのヘッド外してケツにあてがってほしい…」
男9「はい」
数馬「…ここが重要だがシャワーのノズルを外して親指で半分押さえて水圧をあげて…肛門に力入れないように……それを何度か繰り返して…」
男9「分かりました…」

○ 同 廊下 (時間経過)
扉の閉まったユニットバス。
腸内から空気が漏れる音が聞こえる。

数馬「……女と経験は?」
沼田「あります…1度だけ…」

数馬、沼田を見る。
沼田「……」

数馬、ショパンのノクターンを口ずさむ。
沼田「聞いた事あります……」

数馬、G’Z one ca002を取り出す。
数馬、G’Z one ca002を首にかける。
ノクターンが流れる。
数馬、沼田の手を取り腰にあてがい、
チークダンスを踊る。
沼田、笑みを浮かべる。

○  同 部屋
立ちながらピアノを弾く男6。
数馬、後ろから覆い被さり、男9のジーンズのジッパーを下ろす。
数馬、伸びたトランクスをまくし、男9の臀部を弄る。
数馬、男9の耳たぶを愛撫し、ギンガムチェックのシャツのボタンをゆっく
り外し、付け直す。

数馬「カット……君…ピアスを外してくれないか?」
男9「あ…はい……」
数馬「沼田……」
沼田「ハイ……」
数馬「そこに霧吹きがある…俺にかけてくれ……」
沼田「ハイ……」

数馬、ピアノの上の額に飾られた写真を見る。

数馬「もう1回弾ける?」
男9「ハイ…ああちょっとトイレ行っていいですか?」
数馬「いいよ…」

男9、ジーンズを上げ、トイレに向かう。
沼田、霧吹きを数馬にかける。
数馬、頬から水から滴り落ちる。

数馬「沼田…手にローションをかけてくれ…」
沼田、数馬の手にローションのチューブをたらす。
数馬、腋で手を拭う。

○  コンビニ (夜)
数馬、コンビニを入る。
店員・清水(25)、数馬を一瞥する。

清水「いらっしゃいませ……」

数馬、カウンターを通り過ぎる。

数馬「コーヒーと紅茶…どっちがいい?」
清水「……」
数馬「コーヒーにしよう……」

数馬、コーヒーを2つレジに持ってくる。

数馬、清水の名札を見る。

数馬「俺の方が上手い…」
清水「……」
数馬「……」

清水、コーヒーのバーコードを読み取り、

清水「240円になります……」
数馬「あ…あと147番……」

清水、振り返り、煙草を取りに行く。

清水「こちらでよろしいですか?」
数馬「はい…」

数馬、ポケットから650円を取り出しカウンターに置く。

清水「……650円です……」
数馬「どっちがいい?」
清水「……」
数馬「俺はこっちだ……」

数馬、コーヒーと煙草を手に出て行く。
清水、数馬の背を見る。

清水「……俺の名前は何でしたっけ?

数馬、振り返る。

数馬「……佐伯…義久……」
清水「…いい名前ですね……」
数馬「ああ……」
清水「……」
数馬「……」
清水「まだカメラマン?」
数馬「……」
清水「……」

清水、目線を数馬から外す。
数馬、店を出て行く。

○  新宿前 (夜)
数馬、歩道を歩いている。
数馬、腕時計を見る。

乞食2(58)、数馬に近寄る。
乞食2「Can you speak Japanese?」
数馬「……Yes…」
乞食2「煙草吸うか?」
数馬「あ…持ってます…」
乞食2「1本欲しいな…」
数馬「……」

数馬、ポケットから煙草を取り出し、
乞食2にかざす。
乞食2、煙草を受け取る。

乞食2「あと500円でいいからくれよ…」

数馬、ポケットに手を入れコーヒーを取り出す。

乞食2「コーヒーは飲まねぇんだ…」
数馬「……」

数馬、コーヒーを内ポケットにしまい、ジーンズのポケットに手を入れ、

数馬「向こう行け…」
乞食2「あ?……」
数馬「どっかいけよ!」

乞食2、立ち去る。

○ 新宿3丁目 (夜)
数馬と勝、新宿通り歩道を歩いている。
勝、数馬の衣服を一瞥する。

勝「土曜も仕事か?」
数馬「ああ…」
勝「…何やってるんだっけ?」
数馬「……役者だ…」

勝、苦笑する。

数馬「どこ向かってる?」
勝「あの先に上手い餃子屋があるんだ?」
数馬「ダイエットするんじゃないのか?」
勝「その内な…」
数馬「そっちは2丁目だ…」
勝「……ちょっとブラつかねぇ?」
数馬「…あそこにTuLLYsがある…」
勝「いいじゃねぇか…行こうぜ」
数馬「……中華はいいのか?」
勝「ああ……今は混んでる…ちょいと踊って腹空かすんだ…」
勝、軽くボックスを踏む。
数馬「……」

数馬、首元のサングラスをかける。

勝「何気取ってってんだ?夜にサングラスか?」
数馬「サングラスじゃない…ic berlin ……eye wearだ……」
勝「……」

○ クラブ内
フロントで入場料を払う勝。
数馬、財布を出す。

勝「俺が払う…2人前だ……」
数馬「……」

勝、ドリンクチケットを1枚数馬に渡す。
勝、数馬に耳打つ。

勝「……女がいるぜ……」
勝、カウンターのバーテン(23)に向い、

勝「ビール」
バーテン「ハイ」

バーテン、缶をグラスに注ごうとする。

勝「踊りに来たんだ…そのままでいい…」
バーテン「……」

勝、ハイネケンを受け取る。
勝、一口飲み、

勝「小便みたいだ……毛ジラミ貰った事あるか?」
数馬「あ?」
勝「痒いって言うだろ…あれは嘘だ……髭面の男に咥えられた様に痛いんだ……」

勝、陽気に談笑している男達に目線を投げつける。
数馬、勝を見る。

数馬「……これ飲んだら行こうぜ」
勝「1本2千円もしたんだ…元取るぞ……」
数馬「……」

数馬、ビールに口をつける。
カウンター後ろを、ホールへと歩む勝と数馬。
フロアホールの奥の舞台で4人のGoGoBoy、陽気に踊っている。
数馬、煙草に火を点けおもむろに舞台に目をやる。
数馬、舞台に美紀がいるのに気がつく。
数馬、美紀に凝視する。
曲がトーンを下げると共に、ライティングがフェイドする。
美紀の目線、数馬を捉えようとするが闇に包まれる。
ライティング、曲に合わせ緑のスポットを回転させる。
美紀、革のパンツをはき踊っている。
数馬、煙草を落とす。
数馬、勝に目をやる。
勝、女1(27)連れの男10(29)に肩を置き、女を口の肩に手をやり女を口説いている。
数馬、そばで談笑している男11(30)に目をやり、その男の連れの男12(33)を殴る。
唖然とする周囲の人間。
勝、振り向き数馬の肩を掴む。

勝「何やってんだ?」
数馬「……俺のケツを触りやがった…」
勝「それ位我慢しろ…」
数馬「……指を入れられた……」
勝「……」

勝、撮れ込んだ男12に蹴りかかる。
数馬、制ししようとする男11を殴る。
数馬、美紀に目をやり、肩で息をする。

数馬「勝…もう行こうぜ……」
勝「……」
数馬「…行くぞ……」

数馬、勝の腕を引く。

○ 事務所 (昼)
数馬、車の鍵とIS05を机に置く。
石塚、机上の封筒を数馬に差し出す。
数馬、石塚を見たまま封筒を内ポケットに入れる。

石塚「数えないの?」
数馬「嫌でも分かります…」
石塚「……」
数馬「どうも…お世話になりました……」

数馬、頭を下げ踵を返す。
数馬、振り返る。

石塚「……」

他の社員達、PCモニターから目を離ささない。
数馬、沼田の席に立ち止まる。
数馬、内ポケットから皺だらけのハンカチを畳み、沼田に渡す。

数馬「お前に必要だろ?」

沼田、数馬を見上げる。

沼田「……」
数馬「じゃあ……」
沼田「……数馬さん…」
数馬、振り向く。
数馬「……」
沼田「ニーチェです…」
数馬「……」
沼田「……」
数馬「……ありがとう」

数馬、事務所を出ていく。

○ 同 玄関前
沼田、玄関戸を開ける。

沼田「数馬さん!」

数馬、振り返る。

数馬「……」
沼田「……」
数馬「何だ?」
沼田「1本貰えませんか?」
数馬「本気か?」
沼田「ええ」

数馬、ポケットから煙草を取り出し沼田にかざす。
沼田、1本受け取る。
数馬。ジッポをかざす。

沼田「自分で点けていいですか?」
数馬「……ああ…」

数馬、ジッポを閉じ沼田に渡す。

沼田「重いすね……」
数馬「クロム……」

数馬、沼田を見る。

数馬「…ハーツだ……」

沼田、数馬を見て笑みをこぼす。
沼田、目の前で煙草とジッポをかざし、火を点ける。
数馬、唖然と見ている。

数馬「何やってんだ?」
沼田「え?」

数馬、煙草を取り出し1本咥え、ジッポで火を点ける。
沼田、見よう見まねで煙草を咥える。
数馬、沼田のタバコに火をかざす。

数馬「吸え」

沼田、せき込む。
数馬、苦笑し、沼田の煙草を取る。
沼田、苦笑する。

数馬「沼田…引き継ぎだ…いい男を口説くにはこう言え……成功率は低いが……」
沼田「『プラチナと銀はどっちが好きかな?……僕は銀だ…汚れても磨けばまた輝くからさ……』」

数馬、微笑む。
沼田、つられて笑う。

数馬「沼田……これをむしり取ってくれ…」
沼田「本気ですか?」
数馬「……」

沼田、数馬の首元を手を伸ばし、ネックレスをむしり取る。
数馬「……じゃあ…」

数馬、踵を返そうとする。

数馬「シゲ…子猫はいないが…ウチにもワンコがいる……」
沼田「……」
数馬「……」
沼田「……」
数馬「……」
沼田「……」

沼田、数馬を見据える。
数馬、立ち去る。

○ マンション
数馬、扉を開ける。
健児の靴があるのに気が付く。
数馬、健児の革靴を揃える。

○ 同 リビング
数馬、リビングに顔を出す。
健児、ベッドの端に座っている。

数馬「……仕事は?」
健児「……」

数馬、健児に歩み寄る。

数馬「……今度の休み…連休取って…New Yorkに行かないか?」
健児「……」
数馬「……」
健児「……New York…なにしに?……」

数馬、健児を凝視する。

数馬「……自由を感じるために……」
健児「……」

数馬、健児の手元のi-phoneを手にする。
数馬が出演しているアダルトビデオが流れる。

数馬「……嘘じゃない…虚構だ…」
健児「……そんな屁理屈いいよ…」
数馬「……」
健児「……」

数馬、i-phoneを壁に投げつけようとする。
壁に掛かっているボブロスの「夜明け前」が数馬の眼前にある。
数馬、大きく息を吐き、i-phoneを健児に渡す。

数馬「……湘南行ったの覚えてるか?……」
健児「……」
数馬「途中で各駅に乗り換えて…駅に降りて……」
健児「……トンネルを潜り抜けた駅?」
数馬、健児を見る。
数馬「……アイスコーヒーを飲んだ駅だ…」
健児「……」

数馬、ポケットからICレコーダーを取り出す。

数馬「…嫌な街だ…改札を降りたらでかいパチンコ屋があるんだ……その上には心療内科…内科…皮膚科…and so onその上が予備校だ…左に行ってもセブンイレブン…右に行ってもセブンイレブン…その隣がメンタルクリニック…シムシティーのやり過ぎだ…」
健児「……」
数馬「……高校の時…駅前の歯医者で歯を5本抜かれた…1本は抜く必要がなかった……40万払ってインプラントをしたんだ……サバイバルゲームをやる奴が使う…透明のゴーグルをつけた歯科衛生士の女がこう言った…『血がいっぱい出てビックリした?』…俺はこう答えた…『てめぇの息が臭いんだ…ビッチ……』…」

健児、苦笑する。
数馬、ICレコーダーを消す。

健児「…あそこで生まれたの?」

数馬、健児を見る。

数馬「……」

数馬、目を伏せ、サイドテーブルから
パスポートを出し胸ポケットにいれる。

数馬「俺のもんは全部捨ててくれ……」
健児「……」
数馬「それじゃ…」
健児「……」
数馬「……」

数馬、健児を見つめ、その目を伏せる。
健児、数馬に近寄る。
数馬、目を伏せている。
健児、数馬の前で立ち止まる。
数馬、健児を見つめる。
健児、数馬にキスをする。
数馬、目を閉じる。
健児、唇を離す。

数馬「顎の手術なんかしなきゃよかった…」
健児「どうして?」
数馬「唇の感覚がない……」

健児、数馬を凝視する。

数馬「じゃあ…」

数馬、踵を返しテーブルにi cレコーダーを静かに置き扉を開ける。
立ち尽くす健児。

○ 並木橋 (昼)
ウェストポーチを肩にかけ、並木橋を歩く数馬。
数馬、足を止め、川の前に立ち止まり、
川に目を落とす。
ウェストポーチからピルケースを取り
出し川に投げ捨てる。

○  美紀のアパート
翼(6)、ドアをノックする。
ドアが開き数馬、翼を見る。
翼、奥へ引っ込む。

目元に絆創膏を貼った美紀、顔を出す。

美紀「よう……」
数馬「……」

美紀を見る数馬。

数馬「翼…入学したらクラブは何やるんだ?」
翼「サッカークラブ」
数馬「……」

数馬、サッカーボールを前に出し、足元へ置き翼へパスする。

美紀「悪いな……」
数馬「……」
美紀「飯でも食うか……」
数馬「……」
数馬「……I Wanna stuff your mouth……」
美紀「あ?」
数馬「I Wanna stuff your mouth !」

美紀、苦笑する。

美紀「日本語しゃべれ……」

数馬、目線を避ける。
ノックがある。

数馬「はい」
声「大田です…」
数馬「どちらの大田さん…」
声「いつものお世話になっています大田です……」
数馬「新聞なら結構……」
声「今日はご挨拶に…」
数馬「洗剤も結構…」
声「いつもお世話になっておりますので…」
数馬「高校ん時……朝日を読んで、大学は日経を読んだんだ……でこんなアパートに住んでるんだ…」

美紀、数馬を見つめながら笑みを浮かべる。

美紀「もういねぇよ…」

数馬、苦笑し美紀を見つめる。
数馬、革ジャンを脱ぎ、美紀を見る。

美紀「……暑いか?」
数馬「……いや…丁度いい……」
美紀「……」
数馬「……」
美紀「……」

数馬、革ジャンをはおる。

数馬「行くよ……」
美紀「仕事か?」
数馬「……ああ……」

数馬、翼に目をやる。

数馬「今度パスを教える…」

翼、照れ笑いをする。

数馬「じゃあ……」
美紀「…またな…」

数馬、踵を返し出て行く。

○ 小田急線 新宿駅
大勢の乗客が下車している。

○  同 車内
数馬、電灯が消えた車内でシートに座り、窓の外へ目をやる。
×      ×
マンションの途切れ途切れに、歩道に沿い桜が咲いている。
×      ×
数馬、ふと立ちあがり窓の外に目を投げかける。