エンゼルハート (1987)

監督 アラン・パーカー
主演 ミッキー・ローク, ロバート・デ・ニーロ, リサ・ボネット

悪魔が好きだ。

こういうと語弊があるが悪魔崇拝者ではない。日本で悪魔崇拝と言うと酒鬼薔薇の事件や、藤沢の悪魔払い殺人事件などの猟奇殺人事件と結びつけがちだが、日本でいう御霊信仰に近いのではなかろうか?悪霊となり得る強大な闇の力を借りるという意味で。例えば家康が江戸に幕府を開くにあたって平将門の結界をひいた事など、枚挙に暇がない。

大魔王ルシファーなどは元は神に仕える上位の天使。また、バール、ベルゼブブは異教の神だった存在。平将門は天皇に謀反を起こした逆臣。崇徳天皇は親からも弟からも疎まれ京を追放され最期は怨念を抱き怨霊と化し憤死した。

こういった古からの業のドラマがあるから悪魔が好きなのだ。

このエンゼルハート1987年と古い作品であるが、色褪せぬ魅力、いや色褪せつつあるフィルムの淡い光が奥行きのあるドラマを形どっている。

男が惚れる名俳優ロバート・デニーロが魔王ルシファーを演じている。気品があり巧みなレトリックで相手を酔わせるが、底知れぬ威圧感がある演技だ。
魔王がある男の捜索を依頼したのはミッキー・ローク演じる私立探偵。甘いルックスでくたびれた中にも色気かある。この後ヒンシュクを買ったボクシング試合、たび重なった整形手術で彼はハリウッドのスターダムを落ち、自らの境遇とリンクした「レスラー」で名演するまで人々の記憶に忘れられる事になる。

悪魔を描いた映画は多い。「エクソシスト」「コンスタティン」「悪魔を憐れむ歌」「ナインスゲート」「オーメン」「エンドオブデイズ」「ディアボロス/悪魔の扉」「ヘレディタリー 継承」etc

位の高い悪魔は、現世界の姿を大概が品良く描かれている。人々が悪魔に抱く彼らの貪欲さ・狡猾さ・残忍さを隠すためか、古の伝統を重んじるためか、人の持つ虚栄を体現してるためか分からないが、今回のルシファーも大変お洒落だ。

特に目を引くのが指輪だ。

赤いルビーの上に銀のダビデの星を載せた印象的なアクセサリーだ

前情報無く映画を観たので、アーティスト「アレックスストリータ」が映画の為作り「エンゼルハートとして有名なアクセサリーとして生き続けているとは露知らなかった。

優れた映画は時代を変えるだけの力があった。

ストーリーが進むにつれて主人公自身がルシファーと契約した者に肉体を奪われた存在だと明らかになる。

悪魔との契約で、魂を引き換えに名声や財産、地位を得るパターンは実に多い。日本の「稲荷信仰」に近いのかもしれない。

冒頭にて深夜の裏路地で杖を持った男のシルエットが通りすぎ、猫と犬の諍いの後、死体が横たわっている。
杖の男がルシファーなのか、死体が探偵なのかの説明はない。そうなのしれないし、そうでないのかもしれない。観る者に解釈を委ねる様な演出は実に効果的である。
水しぶきをあげるタップのアップ、明暗あるエレベーターの乗降、唐突に知らされる弁護士の死など、平衡感覚を揺さぶり観る者の不安の鼓動を高鳴らせる。