藍宇 〜情熱の嵐〜(2001)

監督 關錦鵬(スタンリー・クワン)
主演 胡軍 (フー・ジュン)劉燁 (リウ・イエ)

最高のゲイムービーだと思う。激動する中国で2人の男が出会い、10年越しで2人の真実の愛を描いた。初めて観た時の高揚感、観終わった後の虚脱感を今でも覚えている。

劉燁演じるランユーはNYへの留学を夢見る建築科の大学生。貧しい地方出身の苦学生のため売春のバイトをする。

ランユーを買うのが胡軍演じるハントンだ。バイセクシャルの実業家である。

劉燁の演技があどけないながも芯があり、当時は彼に一目惚れだった。(しかし今では相手役の胡軍の方が断然いい男だ。美形な男は歳を取ると魅力が減る気がする。長期戦に及べは三枚目位が丁度いいのかもしれない。)

当時の時代背景も良く描けている。中国人の家族や身内を重んじる風習や、日本文化への憧憬、社会情勢など。

2人は偶然にも冬の街で出会う。ランユーにマフラーを巻くカット。わざわざカットを割り切り替えしたりする演出。他愛もない行為だがランユーには惹かれる事だったかもしれない。ランユーにはあまり父性というものが感じられない。

ハントンにランユーを性相手として紹介したのはハントンの仕事仲間である。自分のセクシャリティを仕事仲間が知っている。しかも後日ハントンはランユーを実家の正月休みにも連れてくる。

この描写は日本人ではなかなか考えられない。同性愛者、バイセクシャルはセクシャリティをクローズする傾向があるし、家庭に同性愛のパートナーを持ち込まないのが作法だろう。(日本映画「怒り」では同性愛者の優馬は優馬の母親に会いたいという直人を当初は邪険に断った。あれが日本人ゲイの素直な感情だろう。)

中国人実業家ハントンの頓着の無さ、豪快さを良く描けている。

しかしハントンは体育会の学生をホテルに連れ込み、運悪く初めてタクシーに乗ってハントンに会いに来たランユーに目撃される。
ハントンを遊びだと思えないランユーは立ち去ろうとする。

天安門広場での政府の不穏な噂を聞き、そこにランユーを見たと聞いたハントンは、夜更けに車を走らせる。運良くランユーとハントンは無事に会えた。

凄惨な天安門事件の描写はここでは描いていない。無惨にも自由が砕かれたからか、友人が亡くなったからなのかランユーはハントンの肩で泣きじゃくる。

ハントンは2人の為の新居を構える。幸せ絶頂な2人だが、正直この辺りのランユーの演技が乙女的で好きではない。

家長としての、男としての面子を重んじており、同時にバイセクシャルという事もあってハントンは流暢にロシア語を話す通訳に惹かれ初める。

激しい別れ際の諍い、そして華やかな結婚式。暗と明のカットが違和感なく呆気なく繋がる。

そして時間が経過した再会のカット。

空港駐車所で2人は偶然にも再会する。ランユーは成長著しい中国での建築会社に入社していた。かつて経済的にも精神的にも上だったハントンだったが、大人びつつあるランユーの成長に対し、緊張した面持ちである。ランユーは別れ際の取り乱しなど考えられない程の冷めようである。

この3つのカットだけで、別れから結構時間が経った事、ランユーが社会人として成長した事、ハントンの結婚生活は上手くいかなかった事が分かる。

その時、ランユーには新しい恋人がおりハントンは彼とも食事をしたいと申し出る。終始素っ気ないランユーだが連絡先をハントンに渡す。再会を喜ぶ嬉しい気持ちを抑えているのではなく、聞かれたから答えたという感じだ。もちろん嬉しい気持ちもあるだろうが、好きだったとはいえ別れを切り出した相手、自分には新しい恋人がいる、しかも同僚を待たしている、そういった事を踏まえた態度だったのだろう。

対照的にハントンは少年が初恋の人を見送る様にランユーに眼差しを投げかけ続ける。

そして2人はランユーのアパートで食事を取る。お互いの出来事を報告し合う。ソファで寝入るハントン。彼を起こしタクシーを呼ぼうかとランユーは話しかける。彼等は恋人でないのだから当然の行為だ。空港での再会から続くランユーの気持ちの持ち方はとても美しい。元恋人だからと言って、昔を懐かしんだり恨みつらみ皮肉を言うのでなく、過去の男と再会を楽しむだけを貫く姿勢がとてもいい。

起きたハントンは澄んだ目でランユーを見つめる。そして尋ねる。「抱きしめていいか」と。

ランユーは頷く。

ハントンもいきなり抱きしめたりせずに、許可を乞う。力で押し付ける事なくランユーと向かい合う。拒否するされる不安感だとか、所有したいエゴとかは垣間見れない。ランユーという存在を包括するような対峙で清々としている。

ハントンは抱きしめ、手放した事を後悔する。

何回も観た好きな映画は通しで観たりせず、あるシーンだけをピックして観るが、「ランユー」の場合は断然このシーンだ。「セントオブウーマン」に置けるタンゴシーン、「ミッドナイトラン」に置ける貨車でジャックが過去を吐露し気心が知れるシーン、にあたるのがこのシーンだ。

ランユーもハントンの背中に段々と力を込めていく。

実業家のハントンが新社会人のランユーのアパートの狭いベッドで寄り添う姿は、とてもリアリスティックで好きな絵だ。

そして衝撃のラスト。
区切りがあるからこそハッピーなのか。

砂塵を舞いながら成長していく都市の中を哀愁感じさせながらハントンのベンツが疾走する。