眠らない街〜新宿鮫〜(1993)

監督 滝田洋二郎
主演 真田広之,田中美奈子,奥田瑛二

「怒り」より以前に発展場をリアルに描いた映画がある。「眠らない街 新宿鮫」である。

「踊る大捜査線」より以前にキャリアとノンキャリアの確執を描いた映画がある。「眠らない街 新宿鮫」である。

大沢在昌原作の「新宿鮫」を映画化した作品である。

新宿歌舞伎町を舞台に、キャリアでありながら所轄の新宿署で煙たがれ孤立している鮫島刑事が偽造拳銃での警察官連続殺人事件を解決するストーリーだ。

アクションシーンはハリウッド映画に比べると見劣りするが秀作だ。

この映画の魅力のひとつが新宿の描き方だ。

鮫島が疾走し犯人を追う、今では新宿フラッグスがそびえる南口階段。
犯人・砂上が住む初台の古いアパートから望める新宿ビル群。
今では観光スポットだが、当時は昼間でさえ歩くのに緊張した歌舞伎町一番街、旧コマ劇前。

新宿を闊歩し青春時代を過ごした人種には懐かしい足跡を追体験できる。

自分は高校時代、新宿にオールしに行く小田急線の中で、この映画のテーマソングをMDで聞いていた。まだWEB1.0でさえ普及する前の映画だ。街には汗臭いフィーバーが溢れていた。欲も友も愛も現地調達だった時代だった。

中盤、鮫島が偽装拳銃の作者である木津のアジトに潜入するが逆に捕まり、かつて自分に好意を寄せていた木津に愛憎抱きながら官能的に陵辱される。

余裕を見ていた鮫島だが、偏狭な愛で精神的に追い詰められる。

ここで鮫島は木津に対し、涙ながらに警察官僚から転落し、警察組織から命を狙われるに至るエピソードを話し出す。

ここで鮫島は木津に同情を引いて助かりたい印象を受けて好きになれない。
それとも命知らずの凄腕の刑事も、恐怖に震え、命を乞う人間味を出したかったのか。

しかし、木津にその想いは届かず、陵辱され殺されようとされる。

密造銃製造を生業として、躊躇いなくかつての恋い焦がれた鮫島を撃ち、強姦しようとする木津だが、同性愛者としての立ち居振る舞いは常識的であり、またかつて仕事で関係した未亡人への優しさを垣間見せたりしている。このコントラストなキャラの深みが一層「新宿鮫」を面白くさせる。

結局、上司であり唯一の理解者である桃井警部の応援で鮫島は助かる。
次に鮫島は晶の家に訪れ、晶を激しく求める。己の平静さを得たい突発的な性衝動だが、次第と落ち着きを取り戻す。ここで「木津は俺を崩壊させようとした」等の鮫島の台詞による補足説明が入り、台無しな気がする。

ラスト、ステージで鮫島と砂上が対峙する。愛と命をかける一騎討ち。音楽と相乗して印象的に見る人の脳裏に焼き付ける。

役者陣も素晴らしい配役だ。真田広之は鮫島役のイメージとピッタリだ。2015年に大腸癌で亡くなった今井雅之が鮫島の因縁の相手・香田警視を好演している。そして今では日本映画を牽引する貫禄ある役者に成長した浅野忠信の若き姿も見れる。アウトレイジで関西ヤクザの幹部を演じた塩見三省も、ここでは汚職で鮫島にしょっ引かれる役だ。その他、田中美奈子、室田日出男、奥田瑛二、松尾貴史、大杉漣、高杉亘と日本映画の名役が名を連ねる。

「新宿鮫」はハリウッドでリメイクして欲しい。鮫島はブラッドピットか、同性愛者の木津はマッツミケルセンがいいかもしれない。