- 監督 石井隆
- 主演 佐藤浩市 本木雅弘 ビートたけし 竹中直人
日本製バイオレス映画の最高峰の傑作である。死にゆく凶暴な獣の様に息づく東京を舞台に、美しく洗練された残酷にも峻烈な世界を描ききった。
まずオープニングが美しい。重低音の緊張感あるサウンドで包み込まれた、うごめくコロシアムとしての東京を静かに俯瞰する。
キャスト名が次々と、斜体の縦字で鋭利に浮かび上がりフェイドアウトする。
自分はこの映画を町田にあった映画館「町映グリーン」で観た。ちなみに観客も5人位だったと記憶している。
バブル崩壊と共に多額の負債を抱えたディスコ経営者の万代(佐藤浩市)は、社会のはみ出し者と徒党を組み、暴力団事務所の金を強奪する。
目論みは成功するが、段々と綻びを見せ破滅へ向かい、仲間は1人また1人と死んでいく。
万代は殺し屋からの逃避行を重ねるにつれ、挑発的な色気を魅せる男娼の三屋に、段々と惹かれていく。
新宿西口高速バス乗り場での撃ち合い。
不意を打つ別れの接吻。刹那の愛。
恐ろしくて美しいカットだ。
依頼主の暴力団からも煙たがれるヒットマンをビートたけしと木村一八が演じる。
ビートたけしはバイク事故後の撮影であり、眼帯をつけた様は妙なリアリズムを刻ませる。
またGONINは北野武にとって、自身の作品以外で武ならではの独自性をもってバイオレンスなキャラクターを演じきった作品でもある。
ビートたけし演じる京谷と木村一八演じる柴田は殺しの師匠と弟子であり、恋仲でもあった。
恋といっても相手を慈しむような接し方ではなく、痛め付け肉欲的にも主従を強いる偏愛である。
京谷には生まれながらに愛を知らないが故に愛し方が分からず、暴力で愛を確認せざるを得ない自己否定が脈付いている様だ。
愛する柴田が撃たれた時、寡黙の獣が激しく慟哭する。
強奪後、GONINメンバーの1人・リストラされた萩原が大金を手に我が家に帰るシーンと、同じくメンバーの元刑事の氷頭がレストランで家族と会食するシーン。
『平穏とした日常』とパラレルした『凄惨な世界』が唐突と顔を覗かせる手法は見事なとしか言いようがない。
腐乱した死体の前で、交尾をする京谷と柴田。このコントラストは圧巻だ。
逃避行の主軸が、愛する者を奪った男への因縁とへと静かにシフトチェンジしていき三屋と京谷は終着点にたどり着く。
最近は韓国映画に押され気味な日本映画だが、90年代にこういう映画を連発出来る態勢があったなら、今の日本映画は実にクールであっただろう。